TALK ROOM
ランナーと開発者らが語る「新生VECTIVはなぜ優れているのか」 土井陵×フィエルド花×吉村憲彦 #TR01
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Enduris
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Pro
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Sky
「Summit VECTIV Pro 3」は、“尖っている”けど、非常にまとまってるシューズ。(土井陵)
「Summit VECTIV Sky 2」は、小回りが効いて操作性も高い。足の一部になるようなシューズが好き。(花)
それぞれ異なる特徴を持っているので、一人のランナーがいろんなシーンで使うことができると思っています。(吉村憲彦)
日本を代表するトレイルランナーであり、THE NORTH FACEアスリートの土井陵は、「Summit VECTIV Pro 3」を履いて、スペイン・カナリア諸島でのレースを完走したばかり。ランニング・モデルとして様々なシューズを履く機会の多いフィエルド花と、THE NORTH FACE JAPANのフットウェアグループに所属し、開発に携わり自身もトレイルランナーである吉村憲彦との鼎談によって、VECTIV3.0シリーズの魅力を紐解きます。



舗装路もあって、後半に山があるけれども、それほどテクニカルではない、というコースだったんですね。ヨーロッパ特有の石畳もあり、ゴロゴロとした岩場も最後には走らされる。なのでクッション性の良さは、とても感じましたね。悪いところは見当たらない。特にTPUのプレートが包み込むような形状になっているので、それが沈むことによって生まれる安定感がすごく良かった。


足の一番近い面に、3D TPU&リサイクルカーボンのプレートがHのような形で入っているんですね。踏み込んだ時に真ん中がたわむので、包み込まれるように感じられる。プレート部分は安定性に特化した構造なので、体感していただけて良かったです。


ロッカーモーション(ソールが弓状に反る角度)がきついかなと思っていたけれど、クッション性、安定性が増しているので走りやすい印象でしたね。下りも「どれだけ制御できるかな」と思いながら走っていたんですが、気にならなかった。今回の「Summit VECTIV Pro 3」は、ソールも厚くなってるし、ロッカーモーションも強くついているし、いろいろ“尖っている”けど、全体的に非常にうまくまとまっているなと。きちんと押さえるべきところを押さえているというか。ただ、初心者の方には難しいかもしれない。反発性もあるので、逆に言えば走らされてしまうから、足を使っちゃうなとは思いますね。包み込まれるから安定感はあるし、横振れもしないので、スポットにちゃんと体重移動できたら、うまく足が運ばれていく感じ。適した走り方があると言うか。



――つまり、「Summit VECTIV Pro 3」はそれなりにスピードに乗って走ることのできる人に向いている、と。


そうですね。ゆっくり走る人にはあまり向いてないと思います。


土井さんに同感です。初心者のためのシューズではないと思いました。いい感触はあるんですが、早く走り過ぎてしまうし、すぐにはうまく履きこなせなかった。着地するアングルとか、コツを掴めば恩恵を受けて走ることができると思うんですけど。


お二人の感想のように「Summit VECTIV Pro 3」は、中足部以降での着地をより加速させるような走り方に合うように設計しています。開発のコンセプトは、「厚みを最大化させて、ランナーのパフォーマンスを向上させる」というもの。前作から7mmソールの厚さが増していますし、ロッカーの角度もよりつけているので、走らされる感はあるかもしれない。そのスピードに耐えられる足の筋力は必要だと思います。このシューズは、100マイルレースにおいては土井さんのようなトップアスリートの使用を想定しています。でも、20km、40kmのような距離なら、履く人を選ばないと思います。



確かに、短い距離なら足を温存しなくていいから、スピードに乗って最後まで走れますね。


レースにもよりますけど、多分、僕も100マイルだったら履き替えると思う。例えば「Mt.FUJI 100」の後半は山岳系だから、このシューズが必要ないかもしれない。やっぱり走れるコースの方が活きると思いますね。アッパーの素材に関しても、僕は良いなと思いました。そんなに補強をがっちりしているわけではないし、薄い素材だけど、強さもある。あえて言うなら通気性が高い分、細かな砂がメッシュから入ってきたので、それくらいかな、と。


重さに関してはいかがですか? ソールが厚くなった分、質量は前作に比べて約10g重くなっています。


前半は気にならないんです。でも足が疲れてきた時に、どうしても足を上げる力が弱くなるから、シューズが少し重く感じられてしまう。自分のせいなのか、シューズの重さなのか、わからないんですけどね。でも、最初に履いた感覚で、良いなってすぐに分かりました。足に合わないシューズは、走っていても力がきちんと使われていない感じがするんですね。前足部が緩いなとか、収まりがイマイチだなとか、履いたらすぐにわかる。感覚的なものだから個人の好みによると思いますけど。普段ソールが薄いシューズを履いている人からしたら、違和感があるんでしょうね。


私は、薄底好きです(笑)。普段は、厚底とかカーボンが入っているシューズを履かないんです。なので、やっぱり慣れは必要だと思いました。「Summit VECTIV Pro 3」と「Summit VECTIV Sky 2」を試し履きしたんですが、「Summit VECTIV Sky 2」の方が私にはしっくり来ましたね。グリップもすごくあったので、岩場を走っても全然滑らない。小回りが効くので、テクニカルなところもすごく走りやすかった。操作性が高いですよね。



前作に比べて、およそ30g軽量化されているのと、他のモデルに比べてラグが高い設計になっているんですね。5mmのラグでグリップ性能も高いので、小回りがしっかり効く。花さんに体感していただいた操作性は、軽さとグリップの良さだと思います。



――「Summit VECTIV Pro 3」のラグについても教えてください。


「Summit VECTIV Pro 3」は、どちらかと言えば100マイルやロングディスタンスをメインに開発しているモデルなので、トップスピードで走るシーンは少ないと考えて、3.5mmに設定してます。ラグが深いと、その分ブレーキになってしまうこともあるので。


アウトソールは幅も広いし、安定感がありますね。ラグに関して言えば、パターンが大きくなったので、今回のレースでも舗装路が結構あったのにすり減りが少なかった。前作はパターンが小さいせいか、耐久性が弱くて、2レース走ったら、結構減ってる感じだったから。素材自体は変わってないんですか?


素材は同じなんですが、土井さんがおっしゃるように、面積が広がって圧が分散されるようになっているので、一つ一つのラグにかかる衝撃が少なくなって、その分、摩耗も減っていると思います。


なんて言うのかな、ねっとりしている感じがしたんです(笑)。でも、同じ素材なんですね。


前作の耐久性については、「摩耗が早い」というコメントをいただくこともあったので、土井さんのフィードバックはとても嬉しいです。一足の値段を考えても、耐久性があって長持ちすることは、大事なポイントかなと思います。


1レース終わっても、全然擦り減っていません。まだまだ使えます。


――花さんにとって、良いシューズの条件は何ですか?


私は気になる要素がないことが大事だと思っていて、やっぱり足に合わないシューズは試し履きでも、気になるところがいっぱいあるんですね。「Summit VECTIV Sky 2」がいいなと思ったのは、小さいシューズが好きだから。小回りが効いて軽くて、裸足で走っている感覚になるようなタイプ。だから大きくて重くてゴツいシューズは苦手です。石と石の間の細い部分を走ったり、岩の先っぽの小さな窪みに足を置いたりするのが好きなので、大きいシューズだと怖いんです。コントロールが効かないような気がするというか。私は、足の一部になるようなシューズが好き。


僕も近い感覚はありますね。人それぞれ足型が違うし、同じブランドでもモデルによって足入れが違うから、合わないシューズはそれがダメというわけではなく、合う/合わない、という問題なんだと思います。足を入れてちょっとでも当たっていると「長い距離を走ったら皮がめくれるだろうな」と、イメージができてしまったら、選択肢から外れますよね。



僕自身は体重がある方なので、クッションが厚い方が好きです。VECTIV3.0シリーズで言えば、距離にもよりますけど、基本的には「Summit VECTIV Pro 3」を選ぶと思います。前作もクッションと反発を感じて、本当にロードシューズのように走れるという体感だったんですが、さらに自分好みにクッション性も増して、より走りやすくなった感覚があります。でも、ショートレースだったら、「Summit VECTIV Sky 2」を使うと思いますね。トレーニングも長くても40〜50kmなので、日常的には「Summit VECTIV Sky 2」かな。それで100マイルのレース時には「Summit VECTIV Pro 3」を履く。でも、場合によっては土井さんがおっしゃっていたように途中で「VECTIV Enduris 4」に履き替えるかもしれない。3つそれぞれ異なる特徴を持っているので、いろんなランナーにも提案できるし、一人のランナーがいろんなシーンで使うこともできるなと思っています。



1981年8月生まれ。本格的に走り始めたのは30歳。2014年夏「ULTRA-TRAIL Mt.FUJI(UTMF)」に初出場し、総合15位、日本人3位の成績を挙げて一躍注目を集める。翌2015年にはモンブランを巡る世界最高峰の「ULTRA-TRAIL DU MONT-BLANC(UTMB)」に初出場し、日本人最高位の11位でフィニッシュ。その後も国内外のショートレースから100マイルレースまで、ジャンルを問わずに輝かしい成績を収め続けている。2022年、3つの日本アルプスを繋ぎながら日本海から太平洋まで415kmを駆け抜ける山岳レース「トランスジャパンアルプスレース(TJAR)」では、大会記録を大幅に短縮する4日間17時間33分の新記録で優勝。トレイルランのアスリートとしてその魅力や楽しさを広く伝え、自分が得た経験を世の中に還元したいと考えている。


元プロバレエダンサー。香港と日本にルーツをもつ。デジタルマーケティングの会社に勤めながら、モデルやバレエ、ヨガのメソッドを取り入れたエクササイズ動画をYouTubeで配信するなど幅広く活動。コロナをきっかけに香港でトレイルランニングに目覚め、日本国内の大会にも多数出場し、好成績を残している。主な戦歴は、2022 戸隠マウンテントレイル3位、2022 ISU TRAIL JOURNEY 10位、2023 FUJI KAI69K 7位、2023 BAMBI100マイル 完走などがある。


ザ・ノース・フェイスハードグッズ事業部フットウェアグループ所属。日本の担当者として、VECTIV3.0の開発にも関わる。また、自身もトレイルランナーでもあることから日々のトレーニングやレースのフィードバックをシューズ開発に役立てている。
まずは土井さんが「トランス・グラン・カナリア」(126km)のレースで実際に「Summit VECTIV Pro 3」を使用した感想から教えてください。