RELAY INTERVIEW
自分の脚で走っている感覚を長時間キープできるシューズ。質実剛健で、自分を主役に感じられるシューズだと思います。──矢崎智也 #RI06
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東京・高尾でコーヒーショップ「BOREDOM」を営みながら、100mileレースへの挑戦を楽しむ矢崎智也さん。理想的な日常と非日常のバイオリズムを求めながら「走りの感覚」を研ぎ澄ます矢崎さんがシューズに求めるのは過剰な主張ではなく、信頼・サポート。「Summit VECTIV Pro 3」はその理想に叶うシューズか、その印象を訊いた。
移住する以前は、山が近い・自然が近い環境が大きな魅力だったんですけど、実際に暮らしてみると、コミュニティの存在の重要性を強く感じています。地域のコミュニティであり、トレイルランニングを通じて知り合ったコミュニティが近くにあるこの環境が心地良く感じています。子どもが今小学校に通っているんですけど、山仲間の子どもがクラスメイトにいたり。そういう「近い距離感」を感じることで、良いバランスを保って暮らせています。高尾の好きな所ですね。

今は仕事の都合で走る時間を確保できていないので、ほとんど走っていないんです。でも、これまでも同じ状況を経験していますし、特に大きな変化とも感じていません。無理に走る時間を作ることはせず、中断する時は中断する。走る余白ができて、ターゲットレースを決めたらそれに向けて走り続ける。1年に1本は100mileレースを走りたいと思っているので、レースから逆算して、バイオリズムを整えるようなイメージです。休んでいる時間も含めて、そのサイクルを楽しめるのが、ウルトラの面白いところ。走らない時間もまた、走る時間の一部だと思っています。
例えば、学生時代に海外旅行のためにお金を一定期間貯めて、その日が来るのをワクワクしながら待つような感覚、その日常が楽しみだと思うんですよね。最近の僕の場合はそれが100mileのような超長距離のレースであって、プランニングして、準備に入って、本番を迎えるまで、走っている時間も考えている時間もすべてが楽しく感じます。

そうですね。レース当日にどういった状態でいたいか、そのためにはどのようにトレーニングで積み上げていくのが良いか、継続的にトレーニングするようになると、身体がウルトラモードに合わせて、しなやかになっていくのが分かります。メンタルの変化にも敏感になりますし、その日常が贅沢だと感じます。僕の走るモチベーションですね。

接地の感覚ですね。接地した瞬間に感じる心地良さ、自分の意図した場所に足を置けるか、その歩幅が次の歩幅に対して、意識的に補正せず、次の足を運べるか。特に下りでは、水が流れるように、澱みのない移動イメージがあるのですが、ランニングという重心移動の繰り返す行為で、どうすればその理想を叶えられるかを考えると、足裏の感覚に鋭敏になることが重要なことと感じるようになりました。良い接地感が得られるシューズは、自然に身体が流れていく。美しいラインを描ける。心も体もスムーズに動くことにつながるので、何より大切にしている部分です。
VECTIVシリーズでいえばひとつ前のモデル(2.0)を履きました。「速く進むためのシューズ」というのが率直な印象です。カーボンプレートやロッカー構造、厚みのあるソールなのに思ったよりも軽い。アスレチックにウルトラトレイルに打ち込んでいる人に対して、大きな選択肢になっていると思います。

「本番のためのシューズ」でしょうか。なぜそのように感じたかというと、僕は日常のトレーニングでは薄いソールのシューズを履いています。やはり接地感をダイレクトに楽しみたいから。かつグリップのしっかりしているシューズが好みです。では100mileや100kmのようなウルトラレンジのレースでもその感覚を維持し続けられるかというと、なかなか難しい。どうシューズにサポートしてもらうか、負荷を軽減してもらうかが大切になってきます。「Summit VECTIV Pro 3」はソールの厚みもあって、突き上げに対してのサポートがしっかりしているという印象。同時に(厚みがありながらも)しっかり接地感を得られるところが良かった。これならウルトラレースの後半でもパフォーマンスをキープできると思います。

以前は「速く進むためのシューズ」という印象が強く、ロードの多いレースに向いていると考えていましたが、実際に履いてみると、木の根っこが張り出したトレイルであれ、岩場のアップダウンがあるようなトレイルであれ、見た目とは違って素足で踏んだ感覚そのままの接地感を得ることができました。ジャンルレスにオールラウンドに対応してくれると思います。

安定感ということになると思います。接地感の話の延長になりますが、僕がシューズを選ぶ際のポイントにしているのは、最初の1mileの感覚と同じ状態で、90mile、100mileといられるかどうか、そのための「サポート」をしてくれるシューズです。「Summit VECTIV Pro 3」はカーボンが主張しすぎることなく、安定感が先にある。自分の脚で走っている感覚を長時間キープできるシューズ。質実剛健で、自分を主役に感じられるシューズだと思います。

1984年北海道生まれ。2021年に東京・高尾に移住し、2024年にコーヒーショップ〈BOREDOM〉を開業。今年4月、並行して携わっていたOverview Coffee Japanの代表に就任。多忙を極める中で、1年に1度の100mileレースへの参加を嗜みとする。2019年「信越五岳トレイルランニングレース」で8位、2022年「KOUMI100」で2位、2023年「上州武尊スカイビュートレイル」で2位とウルトラトレイルレースでの表彰台の常連。最近では、マラソン大会の企画・運営、ランニングにまつわる文章寄稿など多角的にランニングと向き合っている。